釣った魚の鮮度保持方法・・ヘッドレスを低温下に
ショアで釣り人が悩む「鮮度維持」について
車中泊のように、日帰り以上の期間の釣りをする場合には、釣果の魚の鮮度を保つことが問題になります。1週間以上を長期とすると、この場合には冷蔵の鮮魚として小型魚の鮮度保持することはできないと考えるのが妥当です。
一泊二日なら、ラウンド(丸ごと)のままでも氷を十分に効かせた状態なら生食可能な鮮度を保てるでしょう。ただし、この場合には、魚が水氷に埋もれていることが前提になります。
実際にはそのようなプロ並の氷の使い方のできる釣り人は多くないと思いますから、翌日でも生食不可になっているケースは少なくないと思います。
二泊三日以上になると、魚種とサイズによっては生食可能な鮮度維持はかなり難しくなります。これを可能にする方法を以下に記します。可能にする、であって、それを担保する方法でないことにご留意ください。理由は後段に記述します。
方法論の前に鮮度変化の理屈です。(以下に記す腐敗細菌には食中毒原因細菌を含みます)
魚に限らず動物の体に腐敗細菌が棲みついている場所は限られます。外部に直接開放(暴露)されている場所です。魚では体表面(エラを含む)と消化器官内部です。骨格や筋肉などの内部組織には、健全なら細菌が居ないのが普通です。最終的に釣った魚が腐って食べられなくなるのは、元をただせば、魚体に付着している腐敗細菌が増殖して魚を腐らせるからです。
この他に、不味くなることにも鮮度は関係します。魚肉は死ぬと同時に自己消化が始まり、たんぱく質がペプチドに、そしてアミノ酸にと分解されていきます。これら旨味成分のペプチドやアミノ酸の量が最大になった時点が、魚をもっとも美味しく食べられます。この時を過ぎると、食味は落ち、上に書いた腐敗に向かって行きます。大型魚の場合には、釣り上げてすぐの未分解では味がないので分解(熟成)時間が必用になる反面、小型魚では1日以内に旨さのピークを過ぎてしまう物もあります。これらの分解は魚体内で起きる化学反応ですから、温度が高いほど早く進みます。したがって分解を早く進めたくなければ、低温下に置くことが必用になります。
次に、鮮度維持の方法論です。
上に書いたように、腐った魚は食べられませんから、如何にして腐らせないかがまずは大事です。食品衛生の基本は、腐敗細菌を付けない、増やさない、殺す、の3つです。この3要素を具体化すると、第1に洗って取り除く、第2に低温下に置く、第3に加熱する、となります。
第1の「腐敗細菌を洗って取り除く」について
釣り上げた魚には、見えるところではその体表面と鰓には細菌が居ます。これらは好塩菌といって海水で生きられる細菌が中心です。真水で洗えば、除外できるだけでなく殺滅も可能です。もう1ヶ所の消化器官内部は洗うことができませんから、そっくり取り除くしかありません。
釣り場での現実的な方法としては、釣り上げたら(〆て血抜きをした後に)速やかに鰓を切除し、内臓を取り除き、まずは現場海水で洗い、つづいて清浄な真水の流水で洗います。
第2の「腐敗細菌を増やさない」について
細菌の増殖はその種類によって好適温度が異なりますが、多くは15~35℃であり、30~35℃では爆発的に増殖すると思っていれば良いでしょう。逆に凍らない限りの低温に置くのが、増殖させない理想的環境です。つまるところ、第1で洗ったら、ただちに今度はなるべく低い温度で冷蔵保存することです。素早く温度を下げないと、下がるまでの間に細菌は増殖してしまいます。その際に真水に触れさせたくないなら、魚をビニール袋に入れて、それを水氷に浸ければ良いです。
水氷に浸すことにより、魚体の周りをほぼ0度に維持できるだけでなく、魚を複数入れたときに下になった魚が押しつぶされることを防げます。氷を下に敷いた上に新聞を置いてその上に魚を置く、そんな方法もあるように聞きますが、果たして魚体は何度になっているでしょうか。冷気は上には上りませんので、鮮度維持に十分な温度とは思えません。
第3の「殺す」は増えてしまった細菌を生きたまま食べてしまわない対策(加熱調理)ですから、本稿の鮮度維持では触れません。
第1第2と二つの大事なポイントを挙げましたが、この基本をキチンと実行すれば釣った魚の鮮度は飛躍的に向上します。
現代に至っても、魚の流通は、相当大型のマグロ等を除けば未だにラウンドが主流です。フィレ(三枚おろし)物ならHACCP対応などの品質管理が可能で意味がありますが、ラウンドではいくら管理に注力しても、そもそも魚体内外が細菌まみれのままですから、衛生管理の実効を上げるのには無理があります。
釣り人が数日間の釣行の釣果を持ち帰る場合に、売り物ではなく、見世物でもなく、持ち帰って安全に美味しく食べたければ、ラウンドのまま持ち帰ることはできないと考えるべきで、上記第1第2は実行すべきです。
現地でスキンレス(皮なし)のフィレにすれば、元々がほぼ無菌な筋肉組織なので尚良いと理論的には言えますが、旅先、遠征先で台所並みの衛生的な環境下で処理することはほとんど不可能でしょうから、これは特別の場合に可能としておきます。
遠征釣行のような数日間の釣りで、実際にできる理想に近い保存形態はどのようなものか。
それはヘッドレス(無頭)と称される段階まで処理して冷蔵保存することです。頭をカマ上で落とし、内臓(背骨下の血ワタも)を取り除いて、尾を切り落とし、真水で丁寧に(特に外皮)洗って、清浄な水氷に浸漬します。
この場合には若干の切り口が水氷に直接触れることになりますが、魚体にも水氷にも細菌がほとんどいないなら衛生的に問題はなく、細胞が生きている新鮮な魚の場合には、真水を吸収して白くなることもごく表面にとどまりますから、利用時にわずかに切り捨てるだけで実害はありません。
板前さんは獲れてから何日も経った魚を扱うことが多いにもかかわらず、調理時に真水を使うことを嫌います。その見栄えと食味重視が食中毒を誘発しているのです。生きている魚を相手にする釣り人がプロの悪しき慣習を真似る必要は全くありません。
魚は魚種、獲れた時期、漁獲方法、魚体の大きさ、魚体成分の季節変動等の因子で鮮度維持の良否(可否)に大きな開きが生じます。したがって最終的には、どんな魚もこうすれば釣った1週間後に刺身で食べられるということは言えません。
私は学者のように理論を極めてはいませんが、以前に鮮魚(産地市場)の加工を業としていたことがありますので、一般の方よりは魚の加工・貯蔵の知識があります。けれども最終的にはそれぞれの個体の食べる直前の状態を見て、食べられるかどうか、食べるとしたら加熱か非加熱か、調理法は何に適しているかを個々に判断することになります。
科学的に判断することも研究室レベルでは可能ですが、その術を持たない私達は五感を元に判断することになります。経験がものを言う世界で、いわゆる目利きです。釣り人は経験を積めば、この目利きになれる位置に居ます。
さて、実際の釣りの現場では、言うは易く行うは難し、の場合も多いです。たとえば真夏のサーフで炎天下にマゴチ狙いでルアーでランガンのような場合には、鮮度維持の理想からはかなり遠くなります。こんな場合には、1尾の鮮度維持のために、期待できる2尾目以降をあきらめるか、それとも数釣って、全体の鮮度を落とすか、釣り人は選択を迫られます。
ゲームフィッシングではなく、釣果を食べる釣り人、特に初心者に向けて鮮度保持の基本事項を記しました。食べない魚はリリース。食べる魚はなるべく美味しく。合言葉はヘッドレスを低温下に。
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