別府・鉄輪(かんなわ)温泉の地獄蒸しは美味

火山列島の日本には沢山の温泉がありますが、利用客が温泉熱で調理できるという場所は多くありません。それも蒸気で蒸すとなると珍しい程度の数になるようです。

今回わざわざこれを主目的に訪れた場所は、大分県別府市井田3組にある陽光荘という貸間旅館です。入浴の温泉はもちろんのこと、調理も温泉熱。そのうえ暖房も温泉熱ということで、熱エネルギーはすべて温泉で賄うという羨ましい環境にあります。

昭和レトロの建物は雰囲気は悪くないものの、廊下と階段が迷路のようで、トイレや洗面が共同とくれば、使い勝手が良いはずはありません。視覚的にはプライバシーは守られているものの、隣室の音は廊下越しに筒抜けです。けれども結構な人気で、宿泊客が絶える事が無いようです。

入浴するための温泉は、この鉄輪地区のみならず別府のあちこちにあり、0円から利用可能ですので、陽光荘のセールスポイントは入浴ではないはずです。つまり「地獄蒸し」と呼ばれる温泉蒸気を使った自炊が、ここの最大の魅力なのです。

陽光荘の地獄蒸しの実際は、

ズラリと並んだ地獄釜

地獄釜は24時間365日、水蒸気が上がり続けています。屋根があって雨はあたりませんが、自然空調の外気にさらされる調理場には常にもうもうと湯気が立ち込めています。

地獄釜は高温の水蒸気で熱いので素手で触ると火傷の危険があるために、手袋をはめて物の出し入れをします。野菜などは数分から、肉や魚でも10分位で蒸しあがります。米飯は1時間くらい掛かりますが、総じて長くはない時間で簡便に調理ができます。

直径30cm程のザルに入れて蒸す

その特徴は、何より美味。蒸すと茹でるの違いがとても大きいことを知りました。汁物であれば汁に出た味や栄養を食べるので物の味を失うことはありませんが、茹で汁を捨てる調理では、物の味や栄養を捨てることになるために味が落ちる。という理屈は知ってはいても、実際に高温蒸気で蒸した物を食べてみて、その旨さに驚きました。

今回4泊5日の間に蒸した物は、切身の魚(マダイ、サワラ)、薄切り豚肉、卵、米、野菜(白菜、キャベツ、人参、しめじ、もやし、長ねぎ、さつまいも)、シウマイ、肉まん。

普通の調理との味の差の大きかった物は野菜でした。その中でも、スダチの絞り汁と醤油を同割りで作った自作のポン酢をかけて食べたキャベツの旨さは特筆もの。いつの頃からか美味に感動することが少なくなっていたのは味覚の老化かと思っていたのですが、そうでもなかったようです。

旨いと思えなかったのは市販のシウマイと肉まんでした。なぜかは分かりませんが、他の非加工品がより美味しく食べられたことを考えると、地獄蒸しが物の味を際立たせて、マヤカシ食品の不味さが露呈したのかもしれません。

鉄輪には地獄蒸しだけを利用できる施設もありますが、日帰りのバタバタではじっくり楽しめませんので、宿泊利用するのが望ましいと思います。ただし、貸間旅館はどこも昭和レトロのようですから、畳の生活を過去の物としてしまった者には使いにくいのですが・・。

今回は初めて別府タワーに登って別府の街を眺めましたが、あちこちから壮大に上がる湯煙を見て、あらためて別府の温泉のスケールの大きさを感じました。生きた地球の恵みと、それとは裏腹の活断層の危険の上に在る人の存在に不思議な思いを抱きました。


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