ウツボの味/西伊豆・戸田湾でタモすくい


ウツボを食べたことのある日本人は、比率でどれくらいでしょうか。獲れない地方、食べない地方もありますから、私の想像では、全国民の1%前後ではないかと思います。

西伊豆・戸田湾への釣行時(2020.06.04)に、海面に浮かせていた活き餌生かしバケツにまとわりついていたウツボを、夕マズメに タモ網ですくい ました。

陸に揚がっても長時間、鋭い歯を持って動き回るとても危険な魚なので、撲殺した後に血抜きをして、ラウンドのまま冷蔵(5℃程度)で持ちかえりました。初めての身おろし作業は、〆てから約18時間後に開始して、完了までに2時間余を要しました。

刺身(そぎ造り) (釣獲2日後)


皮無しの雄節の一部をそぎ造りにしてみました。真っ白な身がきれいで、食べるのがもったいないような美しさですが、まずは何も付けずに一口。

フーン、癖のない白身、というだけではない、ほのかな旨味にわずかな個性をまとって、コリコリ感とあいまって、佳き味です。

しょうゆを付け、ワサビもどきをプラスすると、もう立派な物です。まずまずの美味でしょうか。でも、もう数日置くと、旨味が増えたのでしょうね。

湯引き(薄造り) (釣獲3日後)


皮をむいた雌節の腹身を、湯引きにしてみました。刺身と大きく違わない食味でしたが、純生のそぎ造りより美味に感じました。どうしてなんでしょうね。

アラ煮 (釣獲2日後)


調べてみたら、頭も内臓も食べられて、捨てる所がほとんど無い魚なのだそうで、頭、胃袋、浮き袋、肝臓、むき身、をしょうゆ味で煮付けました。

15分くらい煮たので身が締まって不味くなるのを心配しましたが、それは無く、幸いでした。

胃袋も浮袋も、生の状態とはガラッと変わり、トロリとしたテクスチャーで、浮袋はフーン、胃袋はウマっのお味。

頭は歯を取り除いて煮たので、不安なく食べられ、身の旨味が感じられ美味。皮は、トロ~リの中のゼラチン質が舌にまとわりつきます。

むき身は、ギシ感がわずかに感じられるものの、違和感はなく、旨味のある上品な味でした。

肝臓は、意外にも脂を感じないアッサリの中にほろ苦さが少しあり、くどくない旨さは良かったです。

手間は少々掛かるものの、このアラ煮は楽しめました。

酒蒸し (釣獲4日後)


皮をむいた雌節の腹身を、酒と塩で下味をつけて蒸しました。内外の薄皮が引きつるかと気がかりでしたが、きれいにできました。

さて、お味は。特に臭うというほどではないものの、少し臭みを感じました。最も素直に味の出る調理法なので、この程度なら素材としては問題にならないレベルです。

とは言うものの、旨味に欠けるのかなぁー、ということもあります。ポン酢をかけてみたら、だいぶ良くなりました。料理人の言葉で言うなら、「使えるでしょ。特に美味とは言いませんが。」

白身魚にもいろいろありますが、特有の個性的な旨さが際立つ、というものでないことが、この料理で分かりました。

佃煮 (釣獲3日後)


皮を一口大に切り、酒・醤油・砂糖で甘辛く煮付けました。15分ほどで煮切るとプルプルの皮は箸で切れるほど柔らかくなりました。

口に運ぶと、噛むまでもなく砕け、旨味と香りが広がります。若干臭くも感じたので、七味唐辛子と粉山椒を別々にかけて食べてみました。どちらも合いますが、私は山椒の方がより良くマッチしてくれるように思いました。

当たり前に、生姜を一緒に煮るのも良いでしょう。

日常的に口にするものの中には、こんなにプルプルの魚介食品は思い当たりません。アレンジ次第で、大化けしそうな食材です。

鱓玉丼 (釣獲3日後)


佃煮の派生のオリジナルで、うな玉どんぶり風にしてみた ウッタマドン です。長ネギをざく切りにして、ウツボ皮の佃煮と一緒に甘めのタレで煮込み、卵とじで仕上げました。

玉子が吸着したのか、臭みはマスクされてしまい、感じなくなりました。今回は季節のせいで皮の脂がほぼゼロのたんぱく食品ですから、さっぱりの夏向きに仕上がり、美味でした。卵に火を通し過ぎたのは、単なるミスです。

煮凝り (釣獲4日後)


ウツボ1尾を解体した際のアラやくず肉、皮などを煮出した汁を煮詰めて濾して味付けし、その中で皮無しのむき身に火を通して冷まし、冷蔵庫で冷やし固めた物です。

冷涼感のある夏向きの料理で、一見おいしそうです。では一口いただきます。噛まずとも口の中で解け始めます。ウン、良いですね。味付けは、酒、味醂、味の素、です。

元のだし汁が濃厚ですが、クセや臭いは全く感じられずに美味しく食べられました。お惣菜というより、遊びですね。大人のママゴト。

天ぷら (釣獲5日後)


むき身と皮のみをそれぞれ、塩と酒で下味をつけて、天ぷらに揚げてみました。業務のようなボッテリでカリカリの衣ではありませんから、素材の味が出ます。

アツアツをまず塩だけでパクッ。
ふーん、やはり少し臭いが出ますね。でも油が絡んで、それなりにいただけます。

次は天つゆに浸してパクッ。
臭いが消えて、食べやすくなりました。まっ、普通にいただけますが、格別美味ではありません。

むき身の方は、ごく普通のテンプラとして通用する味ですが、皮だけの方はかなりインパクトがあります。短時間で揚げたせいか、ぷにゅぶにゅ感にねっとり感が加わり、加熱不足かもしれません。

揚げ物なので、カリッと揚げるべきかと思いました。と、いろいろ難癖を付けてはみたものの、やはり油調理は強いですね。たいてい何でも美味しくしてしまう天ぷらでした。

唐揚げ (釣獲5日後)


ショウガ醤油味の下味を付けておき、片栗粉をまぶして揚げました。この料理は素材に関係なく美味ですから、美味しくて当然です。

皮付きの身と皮だけを味見しました。口に運ぶと香り良く、臭みは全くありません。そもそも臭みといっても、ニザダイ、イスズミ、タカノハダイ、のような強烈な臭さではないので、簡単に消えます。

かみしめると、コラーゲンたっぷりの粘っこいモッチリ感が伝わってきます。美味しいとも言えますが、少々違和感もあります、慣れないせいでしょうね。とにかくとっても個性的な食材ですねぇー。まぁまぁの美味です。

つけ焼き (釣獲8日後)


基本の付けダレ(酒2:味醂1:醤油1)に5日間漬けておいて焼きました。主に皮の部分なので、崩れることを心配して、ステンレストレーに乗せて電気オーブンで、普通に焼きました。

香ばしい香りが鼻をくすぐります。箸で切れる柔らかな皮を口に運びます。やはり、トロリ。身も柔らかく美味。調味料の力は偉大です。これを干してから焼けば「味醂干し」ですが、その方が旨いように思います。また今度、です。

ウツボ料理の総評

2人分とはいえ、1尾のウツボで10品も作ってしまい、なかなか楽しめました。初めてゆえに、下処理に想像以上に手間がかかりましたが、小骨を取り去った後は調理の苦労はありませんでした。

特別に旨い魚とは思いませんが、時にはこんな物も食卓に乗せることで、食生活が豊かになると思います。今回は基本的な料理で素材を知ることに努めましたが、次回は素材に合った料理を作りたいと思います。皮、ですね、ポイントは。

調理におけるウツボの特殊性

消費地の実店舗で市販されていることは、ほぼ皆無だと言える魚です。通販では骨をすべて除去した物がわずかに高価で流通していますが、いずれにしても特殊な魚であることは間違いありません。

その昔は漁師がぶつ切りにして調理し、骨を出しながら食べていたようですが、加工技術の進歩により小骨を除去してから調理されるようになりました。

ラウンドのウツボを食べられるまでに調理するためには、長物特有のおろし難さに加えて、分厚い皮とたくさんの小骨を取り除く必要があるので、素人にはほぼ無理と言われています。

私は以前に魚相手に包丁を毎日使っていた、いわばプロだったのですが、今回初めてウツボを調理しました。巷間言われる「素人には無理」は正しいと感じました。

身の薄い長物であるタチウオより、格段に難しいです。ネット上の情報を頼りに一般的な処理をしましたが、次回は先に頭側から皮を剥いだ後に身おろししてみようと思います。

分厚い皮はゼラチン質の多いコッテリに対して、むき身は白身でアッサリですから、料理の向きから言っても別物です。基本は別に調理すべきものだと思いますが、ミンサーで混ぜて挽くのはアリかもしれません。

厚くて長くて伸びて切れにくい皮は特殊な素材ですから、プロなら何かを包むでしょうね。ただ、火が通ると黒くなるので、赤い色のソースと合わせますか。んー、面白そう。


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