釣魚の気化熱冷却法

釣った魚を濡れタオル1枚で冷やす方法

ショアでブリ、シロサケなどの大魚が釣れた時に大型のクーラーを用意していないと、その保管に困ります。

冬の低温期なら、魚をその場に転がしておいても酷い高温にはなりませんから、あまり心配はありません。

しかし、暑い時期にこんな扱いをしたら、魚は高温になって死後硬直が早まるだけでなく、エラや内臓の腐敗が始まりかねません。

魚が釣れ盛って手が空かないような時、とりあえず現場に置かざるを得ないようなことが、時には有ります。

そんな時に役立つのが、この "釣魚気化熱冷却法" です。

冷却器や氷を使って温度を下げるわけではないので、長時間の保蔵にには向きませんが、釣り場で一時的に行うなら、大いに価値があります。なぜなら、簡便で昇温防止効果があるからです。

気化熱で魚を冷やす仕組み

魚にタオルを乗せて水を掛けるだけです。冷たい水をかけ続けて冷やすのではありません。それでも温度が下がります。

水は液体ですが、水蒸気という気体にも変化できます。それが"気化"で、それには熱エネルギーが必要で、周囲から熱を奪います。その結果、水に接している物を冷やします。

洗濯物が半乾きの時に触るとヒンヤリしているのが、この気化熱冷却の一例です。

温度が高く、湿度が低く、風が強い環境で、この気化熱冷却が効率良く進みます。言い換えると「カラッとした風の吹く暑い日」で、「洗濯物が早く乾く」ような環境です。

論より証拠の実験をしてみます。濡れタオルの冷却効果は如何ほどか。

気化熱冷却法による物体の温度変化比較実験

ペットボトルに水を入れて、魚のダミーとします。釣り場に日影があることは稀なので、あえて日なたで実験します。

400gの水(満水)を入れたペットボトル2本を
 A  茶色の乾いたタオルで包む
 B  茶色の濡れたタオルで包む

実験中
樹脂スノコの上に置いたA・Bのタオルとボトルの間(上面)にプローブ(温度センサー)を仕込み、Bにはたっぷりの水を掛けて、その後の温度変化を見ます。

試験した時の条件 2022.06.25
・薄曇りを中心に曇から晴れが混じる不安定な天気
 気温=26~29℃ 風速(推定)=4~5m
・ABは試験前に濡らさずに置いて、気温に追従させておく
・Cは表示盤裏側に非接触で貼り付けて保持する

実験の結果を表とグラフで示します。



検証と考察

開始時にAB間に差が見られたので、それぞれの時系列で増減する値(D・E)の差に注目して検証することにしました。これが気化熱の効果と考えられます。

突然雲がかかったり、強い陽がさしたりという変化の影響も出ていますが、総じて時系列の流れを表わしたデータと言えます。

乾いたAは、輻射熱による温度上昇で、開始時から温度が上がり続け、ピーク時の13:45には気温との差が約12度になっています。

スタート直後に水を含ませたBは、気化(乾燥)初期には弱かった冷却が、ピーク時の13:45には、気化熱による冷却効果F(E-D)が-13.2℃になっています。

気温が上がるほど水の気化量が増えて、冷却効果が上がったものと考えられます。ただし、低下した結果の物体温度は、ほぼ気温並ですから、安心対策ではなく、危険回避対策と考えるべきです。

中温細菌の至適温度が30~38℃程度と言われていますから、気温が30℃を超えない環境下であれば、衛生面でも有効な方法と言えます。

注意すべきは、気温と海水温との関係で、この気化熱冷却法の功罪が決まります。(魚の温度を上げてしまい、放置するよりはまし、ということも有り得ます。)

なお、鰹鮪類のように血合い筋の発熱で、死後に内部から温度上昇すると言われている魚には、冷却効果が不十分だと考えられます。

結語
・気化熱冷却法は簡便にもかかわらず、物体の温度上昇を阻止して気温並に維持する効果があるので、他に冷却方法がない状況下では、行うべきです。
・ただし、なるべく早くに必要な低温の環境に移すべきです。

補足
* 気化熱冷却を釣り場で行う際に地面が気温以上の場合には、魚は地面から離して(持ち上げて)維持する策を講じるべきです。
* 高温時期の場合には、この冷却をする前に、活〆して、エラや腹ワタは除去しておくべきです。

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