魚醤を釣魚のアラで作る

魚醤 (ぎょしょうを普段の料理で使う人は多くないように思いますが、残念なことです。この旨味を知ると何にでも入れたくなるはずです。伝統食品であるとともに、現代の加工食品にも多用されている旨味調味料です。

この魚醤の濃厚で芳醇な味が、釣り人ならただ同然で作れるのが魅力です。必要な物は、釣れても廃棄(リリース)する魚、食塩、容器、これだけです。屋外の物置に置ければベストです。

素人が魚醤を作る場合には、普通は店頭でカタクチイワシを買って作る場合が多いのだと思います。この場合には魚体のすべてを利用するので、当然に頭や腹ワタも入ります。栄養素的には、筋肉組織よりもアラ部分の方が同等以上に価値が高いと考えられること、そして廃棄部分であることから、今回は ほぼアラのみで作り、経過と結果をシェアします。

魚醤の作り方

継続仕込み完了から15日後
1. 昆虫が出入りできない程度の密閉性のある蓋付きの容器に、新鮮な魚(全部または一部)を入れます。

2. 魚の重量の25%分の食塩を振りかけて混ぜ、陽の当たらない場所に静置します。

 最後の投入後二夏経過すれば完成ですが、環境(温度)条件次第で一夏経過でも使えます。舐めてみて旨味ができていればOKです。(塩分を減らすことは不可能です。減塩すると腐敗します。)

3. シノア 又は目の細かな金ざる(+濾し布)で濾し、醤油さしのような容器に詰めて利用します。濾すレベルは料理にもより、最低限は骨が混じらなければ良いのですが、透明にまで濾すとかなり減ります。

常温保存中も腐敗はしませんが、年単位で味が変わっていき、少しずつ旨味が(分解されて)落ちていきます。経験上(カタクチイワシ)は、旨味のピークは仕込み開始から2年後で、5年後くらいからは旨味の低下を感じ、10年後には使用に値しないレベルまで下がります。

市販品でも、国産物はかなり高価です。輸入品は安価ですが、設備不要の原始的な製造ですから、不安が無いというと嘘になります。塩分濃度の低い製品は、どこかの段階で加水(水増し)されているのかもしれません。

魚醤の使い方

魚醤は製造(保存)中に腐らせずに発酵させる必要から、食塩を飽和状態で維持します。結果として旨味は強いですが、塩分も強く匂いもありますから、使い方に工夫が必要です。

魚醤を汁物に入れるなら、総量の1%程度までが臭わない限界です。これで食塩濃度は推定0.3%程度なので、汁物の標準食塩濃度1.1%との差分は、食塩を含む醤油や味噌など他の調味料も合わせて使えます。

炒め物などで加熱すると、臭いは蒸発して減り、旨味は残るので、塩分限界まで使うことも可能です。ただし、メニュウや食材にもよりますが、微妙に匂いが残ります。

化学調味料のような単一の旨味ではなく複雑な旨味なので、旨味調味料としての効果は相当強力です。一度知ると、手放せない調味料になるでしょう。

 濾した残渣は肥料として利用するのがベストですが、塩分が強いので使用量に要注意です。

魚醤製造経過の画像と味の変化

2023年9月に製造開始した物です。材料は北海道・礼文島の穴釣り で釣ったガヤ(エゾメバル)、ソイ類と買った ホッケ の頭と内臓が主体で、一部にエゾメバルの幼魚全形も含みます。水は一滴も加えず、魚と食塩のみで仕込みました。

私は、過去にカタクチイワシ他では何度も魚醤を自作して使ってきましたが、アラのみでは製造経験がありませんので、安全性と味の確認は未だできていません。この記事は当初からのプロセスを記録(公開)することを目的にしているので、ご承知おきください。

2023.10.01 (1/2月経過)

エゾメバルとソイ類のみでの仕込み完了後

液体から出ていて空気に触れている部分は形を失わず、食品らしくない姿です。腐敗臭は皆無でも、未だ口に入れる時期ではないでしょう。この後、同様に別に仕込んであったホッケの物を一緒にしたのですが、写真撮影を失念しました。以後の経過写真は、合体後の物です。

魚醤仕込み以後の経過

2023.12.15 (約3ヶ月経過)


3ヶ月余までの間に水が上がり、固形物が表面から見えなくなりました。いわゆる漬物の感覚で言うと、こうなれば安心という状態です。漬物程度の塩分では温度次第で腐敗しますが、食塩飽和濃度なので、腐敗はしません。この先は時間にゆだねるだけです。


撹拌してみると、形が無くなりつつあるホッケに対して、ガヤ、ソイ類は崩壊が遅いのが見えました。ほんの僅かを舐めてみました。発酵して旨味もできていますが、未だ脂質酸化臭と生臭みがあって未完成です。

2024.03.15 (約6月経過)


一見して、3ヶ月前との違いが明確ではありませんが、変化は感じられます。冬季にあたる三月なので、静かな変化なのでしょう。でも舐めてみると、旨味が増していました。それとともに脂質酸化を舌に感じる程度が下がったように思います。完成時を楽しみに待って良いように感じられます。


内部の状態は、分解が進んでホッケはそれと分からない程度になりましたが、ソイとガヤは未だ崩壊に至りません。魚種による違いの大きさを感じました。

2024.06.16 (約9月経過)


前の6ヶ月経過と、見た目にはほとんど変わりがありません。ホッケは、もう姿形は見えません。相変わらずガヤ、ソイ類は原形をとどめていて、崩壊する日が来るのか、不安を感じます。


舐めてみると、渋味やエグ味も無く、旨味を強く感じられるので、完成近しと感じます。

2024.09.15 (約12月経過)


表面に浮いているのは魚油のようです。落ち着いた雰囲気で期待できます。高温の夏を越した3ヶ月で随分変わりました。分解はほぼ完了のようですが、未だ、一部に軟体の筋のような物が見えます。

舐めてみると、完成の一歩手前です。生臭みはほぼ無くなり、口中に残るのは旨味の余韻です。使い始めて差し支えないでしょうが、ふた夏経過する来年(2年後)が楽しみです。

2025.09.15 (約24月経過) 時期に公開予定


ここで紹介した、魚のアラだけから作る魚醤の思い付きのきっかけは、釣り場で出たアラの始末に困ったことです。釣り人なら当然のように釣り場の海に還す人も多いアラですが、これを 違法行為 とされた経験を生かしました。

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