北海道の鮭鱒を内地人が釣るには-前編

まえがき

♀サケ in 利尻島
内地でも、東北や北陸あたりではサケ釣りができます。でも、言うまでもなく本場は北海道です。なので、本気で鮭を釣る気なら、北海道に向かうのが近道です。

その北海道でも、地球温暖化を原因とする海水温度の上昇により、鮭鱒の漁獲量は大きく減っているので、遊漁者が釣(れ)るサケ・マスも減っています。

おまけに、釣り場(漁港や海岸)から釣り人が締め出される傾向が強まっていて、盛期には釣り座を確保すること自体が難しくなっています。

そんな背景があるので、初めての内地人が安易に挑んでも、鮭鱒は簡単には釣れません。手っ取り早いのは、つてを頼って実力のある人に全てお膳立てしてもらうことです。

ただ、そのような他力本願の人はこの記事を読む事もないと思うので、この記事では情報収集からすべてを自力で行うことを前提とします。

ここでは、私が2022年夏に実際に経験したことを基にして、鮭へのアプローチの方法とプロセスを紹介します。失敗体験でもあり、成功体験でもあります。

なお、この記事でいう釣りは、"ゲーム"ではなく"食べる"釣りです。キャッチ&リリースを否定するものではありません。食べないなら、リリースするのは当然ですね。

内地人が北海道で鮭鱒を釣るための要件

(シロサケ)と(カラフトマス)は釣りとしての共通点が多い反面、時期がズレたり釣り場や釣り方が異なるなどの相違点も多いですが、ここでは大くくりで鮭鱒として扱います。

目次
1. 内地人独力鮭鱒釣りの要件
2. 釣りと釣魚のための要件
3. 渡道鮭鱒釣りのAtoZ
4. 1尾のアキアジを釣り上げるまでの軌跡

1. 内地人独力鮭鱒釣りの要件

<人的要件>

内地から渡道の鮭鱒釣りをするには、時間の余裕が必要です。現役で忙しく働いている人には、残念ながら向きません。時間のあるリタイア人でなければ実現は困難でしょう。

体力、知力は一人旅ができれば大丈夫、釣りの技術は、PEラインを使ったルアー釣りと浮き(餌)釣りの経験があればOKです。

<設備要件>

釣り(具)以前に、釣り場での滞在と移動手段が必要ですから、衣食住は、事実上、車中泊が一択でしょう。同じ釣り場に立つ現地在住の人とは構えからして異なり、かなり大きなハンデを負うことになります。

車中泊ができ、釣果の魚を保存する設備が必要ですから、相応の車と保冷設備が必須になります。普通の軽自動車からキャンピングカーまで、その選択は目標レベル次第ですが、逆に設備が限界を決めます。

2. 釣りと釣魚のための要件

<釣り場の確保>

海を渡って遠く北海道まで行って、鮭を手にできるかどうかは、この釣り場の確保にかかっています。アキアジ釣りの場所取りは熾烈です。不愉快な釣り座争奪戦が嫌で、マス釣りだけでサケ釣りはやらない、という人もいます。

瞬時に情報が伝わる時代なので、釣れた情報で人が集中する場所と時間を避けるのが賢明です。無理やり割り込むことができない紳士は、他人が行かない、行きにくい場所と時間を選ぶことが大事です。

<釣りの技術>

釣りの基本は鮭鱒釣りにも共通で、朝夕のマズメ時に、魚の活性が上がってスイッチONの時に釣るのが、釣果への最短コースです。

鮭鱒釣り特有の釣り方(仕掛け)の、ブッコミ釣り、浮きルアー、浮きフカセ、垂らし釣り等の基本は確立していますが、その難しさは、餌を食べないサケに口を使わせるところにあるようです。

この釣り方の詳細は、インターネットにある道産子の情報を参考にするのが良いでしょう。

<魚の解体・処理場所の確保>

魚を釣るまでが大事なことは当然ですが、釣れた後の魚の処理も同等以上に大事です。地元人は家に持ち帰って処理しますが、内地人はそれができません。解体・処理はどこでもはできません

基本は、捨てる部分の無い魚と言われる鮭鱒なので、可能な限り廃棄部分を少なくすることです。筋子だけ取ってそれ以外は投げる、なんてもってのほかです。工夫して、可能な限り食べ尽くすのが釣り人としての在り方でしょう。

遠来の釣り人の実際の解体・処理は、人目のない公有地で密やかに行うべきです。残滓の陸上残置は、ヒグマやキタキツネなどの野生動物をおびき寄せる自殺行為なので、絶対ダメです。

廃棄部分は正規に生ゴミとして自治体のごみ処分ルートへ出すのが適切な処理です。ただし、ごみ処分の基本は住民に対する行政サービスなので、非住民不可の場合がほとんどです。

私は従前、自然界の循環に支障のない範囲で、魚体の一部を海に返すのが適切な処理と考えていました。ところが、少量の魚のアラ廃棄を理由に、廃掃法違反で海上保安署に検挙 された経験をしてから、自然に返すという考え方を公然と認める立場を維持できなくなりました。

<保存設備と方法>

釣れた魚の保存は数日なら冷蔵庫かクーラーで、それ以上なら冷凍庫で、が適当です。これは、その場に用意できる保冷設備で決まります。

1尾だけなら、クーラーに置いて数日中に食べ尽くすことも可能ですが、複数になれば冷凍庫で保存するか、冷凍保存が可能な場所に送るしかありません。クール便で送る場合には、原則として"予冷"が必要です。

鮭鱒を釣ること自体は難しくも楽しいのですが、実は釣った後に困難が待っています。それを経過して初めて口に入るのです。くれぐれも、釣れた魚の、後のことを先に考えましょう

3. 渡道で鮭釣りのAtoZ

内地から北海道に行って鮭を釣ろう、そう思い立ってから、実際に釣り揚げるまでの道のりは短くないはずです。考えて準備することは山ほどあります。

渡道してからも、その時々の諸条件と運にも左右されるので、割と早くに結果を得られることもあるかもしれませんが、単独の自力ではそうでないことの方が多いでしょう。

計画段階からの順を追って記します。

<鮭釣りのための学びと情報収集>

簡単に言えば、どこで、どんな釣り方で狙えばいいのか、です。書籍 やインターネットで調べることになります。

釣りを一度もしたことがない人が、いきなり渡道して鮭釣りを目指すことは考えにくいので、この学びと情報収集についての、具体論は省きます。

<生活のための現地情報収集>

釣り場近辺でどのようにして生活を維持するのか。給水、トイレ、風呂、ごみ処分、買物、洗濯等の情報を調べて記録しておきます。

人に頼らずともインターネットを駆使すれば、必要な情報はほぼ間に合います。ネット検索やGoogleマップ(航空写真、ストリートビュー、クチコミ)が役立ちます。

<鮭鱒釣りの計画と実行>

収集した情報を整理、検討して実行計画を作ります。いつ、どこでどんな釣り方で釣り上げ、それをどこでどのように処理して保存し利用するのか。

計画がそのまま実現すれば良いのですが、そう簡単にことは運ばないことが多いはずです。また、机上では不明なままにするしかないこともありますが、それは現地で調査することになります。

その計画を実行しながら修正し、臨機応変に立ち回って結果に近づくのは簡単ではありません。アウトドアですから、天候一つで計画は狂います。そして何より、衣食住の生活を支えながらですから。

鮭鱒釣りの技術は奥が深いとも言えますが、失礼ながら、さほど高度なものではありません。それよりも、道産子には無い内地人の苦労、すなわち最後のヒットの瞬間に自分をそこに置くことの方が難しいです。

体力を温存しながら、自分の足で情報収集して時を待つ。その間の暮らしが、重要ポイントとも言えます。この釣り以前の生活部分は、なによりも大事です。日々の生活を維持しながら、来るべき日を待つのは思いの外たいへんです。

かく言う私も、チャンスを待つ間に体調が落ちたり、魚を見ない日が続いてモチベーションが低下したり、果ては心無い道産子からの「来るな !!」サインに落ち込んだり・・。

それでも、北の海で鮭鱒を釣るのは、良いですよー。何が良いのかは、釣り人なら想像できるでしょう。是非チャレンジしてみましょう、北海道の鮭鱒釣りに !!

4. 1尾のアキアジを釣り上げるまでの軌跡

一般論だけではイメージが湧きませんから、ここでは私が独力で鮭を手にするまでの経過を、参考に供します。

私(筆者)のプロフィールと釣り歴

1951年生まれ、引越13回、職歴4種の根無し草人。
小物釣りを愛するコスパ重視の、食べる釣り人。
餌釣りは泳がせ志向、ルアー釣りは専ら110円ジグに頼るプアマン。

北海道へは20回位訪れているので土地勘はあり、自作キャンピングカー での車中泊旅は、2022年が渡道3回目。明確に鮭鱒釣りに挑んだのは、この年がはじめてでした。

過去の釣り旅でも、道内でチカ、コマイ、エゾメバル等の小物以外に、鮭鱒類では アメマス は釣っていました。

2022年 鮭鱒釣りを目指して渡道

 苫小牧から根室、知床経由で稚内まで

本物の鮭鱒と呼べる、カラフトマスorサケを釣るべく、2022年7月20日に苫小牧に上陸しました。

カラフトマスの実績のある漁港、河口を中心に、十勝から根室半島を回って知床半島の羅臼町に至り、7/28に初めてカラフトマスの釣果を実見しました。

翌日からその地で粘る気持ちで7/29に竿を出したものの、魚影の薄さで、再び移動調査に復帰。

知床半島を越えてオホーツクに出てからは、規制のない河川河口をベタに見歩いて稚内に着いたのは8/1。

そこまでに得た情報では、ある河川河口で一人2、3尾のカラフトマスの釣果を聞いたのが最高でした。その他では、釣り人5人位で1尾という感じ。

カラフトマスの来遊期になると、小型の定置網がそこかしこに設置され、その網は海岸に接する形で張られているので、魚は海岸沿いの横移動をすると定置網に入ってしまいます。

羅臼キキリベツ川河口と鱒定置網
そんなことから、魚が接岸して自由に泳げるのは、旧盆の休みで市場休場で定置網が上がる数日間に限られる、と言われています。

渡道前には、稚内から礼文島に渡ることも想定していましたが、この時点では十分な情報が得られずに悩んだ結果、断念しました。往復で4万円余のフェリー運賃では、気楽なダメモトでは行けません。

 稚内から折り返して知床・羅臼へ

浮きルアー釣り in 宗谷海岸
稚内市郊外でも1度は竿を出しましたが、人の数より少ない釣果では、自分には無理と考えて、折り返すことにしました。日本海を南下してもカラフトマスは居ないのですから。

時季の問題とも考えたのです。より多くのカラフトマスが接岸する時がこれからだと。そうなればなったで口を使わない、つまり釣りにくくなる、とも言われていますが・・。

樺太鱒釣りの最終目的地を羅臼町に定め、そこで粘ることにしました。少々ブナっていても、ぜいたくを言わずに魚にアリツクことを優先しました。

稚内から南下の途中も、下見でキープしためぼしい河川河口の様子を見、何か所かでは<スプーン+タコベイト>を投げてみましたが、ノーバイトでした。

標津に戻り着いたのが8/8でしたから、上陸の日から数えてちょうど20日が経っていました。この間はただただ調査に費やしたことになります。

標津町では2泊して、釣り人皆無の釣り場で道具のチェックを兼ねて竿を出してみましたが、ノーバイト。雰囲気すら無いのと、試行して分かった釣り場としての悪条件に、この地を断念しました。

8/10には羅臼町に入り、実見し聴き取りもしましたが、未だ早かったようです。ここからは持久戦を覚悟して臨みました。2週間は生きられるだけの水と食料を携行して。

この地域は不便な所で、水や食料の補給に難ありなのです。コンビニとよろず屋以上のスーパーと言えるレベルの店に行くには、中標津か斜里まで走らなければならず、その距離は約70kmです。

相泊温泉 in 知床・羅臼町
風呂は羅臼の 熊の湯 と相泊の 相泊温泉 が使えますが、上がり湯無しの野湯ですから、連日には無理があります。泊地との距離が片道10km程度であることと、いずれも終了時刻制限が無いのがメリットです。

漁協の直売所で聞くと、お盆休みの直前の羅臼の定置網でもカラフトマスの漁獲量は少ないながら、休み明けには浜の取引がキロ単位からトン単位に変わる予定との話でした。

待つだけで暇を持て余し、ガヤ釣りに興じ、釣果を捌いていたら 事件発生

エゾメバル 通称=ガヤ

  羅臼から稚内へ

3日間におよぶ調書作成(取り調べ)に付き合わされ、8/14に移動の自由を回復してから斜里に向かいホッとしたと同時に、新型コロナ(推定=オミクロン)を発症。検査は受けずとも、あまりに分かり易い症状でした。

自宅?自主療養8泊を 斜里のキャンプ場の泊地 の車内で過ごし、快癒後に移動して、途中の釣り場を見歩き、再度の稚内着は8/26でした。

浮きフカセ釣り  in 東浦漁港
途中の東浦漁港では、一人で朝夕各1尾のカラフトマスの釣果を聞き、朝マズメに狙ってみましたが、ゼロ。

浮きフカセ釣り  in 抜海漁港
稚内の泊地 を根城に抜海港や宗谷港等、あちこち探索するも芳しくなく、万事休す。

「西稚内港で鮭が釣れた」情報の翌朝には車が80台?来て、駐車場所も釣り座も定員オーバーだったとか。訊くだけでウンザリ、萎えました、もうイイ。

 稚内から利尻島へ

鮭鱒釣りの夢破れて最後の北海道になるかもしれない との思いを下支えに、情報の無い中を利尻島へ渡りました。


たったの1.5時間で約2万円余の運賃は、まさに島値段ですが、他に手段がないのですから、ターミナルも船も無用にお洒落な ハートランドフェリー の乗せてやる姿勢に文句は言えません。


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