磯ガニを合法的に捕獲する in 静岡県=理論編2/2

子供の磯遊びで獲れるようなカニ類であっても、制約なく自由に捕獲して良い訳ではないのですが、許される範囲でなるべく楽に捕まえたいというお話です。

前回の 理論編1/2 では、たも網での昼間の捕獲を想定していたのですが、甲殻類は基本的に夜行性であることを考えると、効率的には夜間捕獲が望ましいことに気付きました。

ただ、夜間の磯での捕獲は昼間より危険ですから、自分が動き回るのではなく、カニに動いてもらって捕まってもらうのが良さそうです。

この考えの行きつく先は自明で、トラップ(わな)になります。形はともかくとして、餌で誘引し、入ったカニが出られない構造の物を、カニの行動範囲に置いて捕獲することです。

ここで問題に行き当たります。ネット上でも見かける、海中に沈めておくペットボトルで自作する"セルびん"様の物の使用は適法か違法かという問題です。

理論編1/2にも書いたように、水産資源の採捕には厳しい規制があります。知らないままに違法行為を行うと、それは犯罪なので罰則が科されます。

平たく言うと、検挙(逮捕)、立件されて、わりと簡単に前科者になってしまいます。知らなかったでは済まされないのが、法治国家の怖いところです。

私は、過去に 海保に検挙された経験 があり、これが前歴になるので2度目は絶対に避けなければならないのです。

たとえ磯の小ガニと言えども、どこで何をどうやって、獲るのかのそれぞれに規制が有り得ますから、良く調べてからでないと、うかつには手が出せないのです。

磯の雑ガニの場合に問題になり得るのは、主に"漁具漁法"の規制です。この規制は都道府県の漁業調整規則に規定されているので、それぞれに共通点もありますが、まったく同じではありません。

ここでは静岡県内の参考事例を記しますが、そのまま他の都道府県に適用できるものでないことは、十分ご注意ください。ご理解いただけない方は、以下を読まれませんように

さて、静岡県内では、セルびんは使用不可です。これは理論編1/2に記した通りです。形を工夫したくらいでは逃げようがないでしょう。

そこで考えたのは、カニの行動です。磯の小ガニを観察していると、水中で見かけるだけでなく、水面上に出ていることも多いのです。

このカニが護岸を登った上の道路を横断して、対側の草むらに入って行くのを、過去に何度も見ています。横断中に車にひかれてペチャンコ、というのも見かけます。

そう、陸上で捕らえるのなら漁業調整規則が適用されないのではないか?、と思いついたのです。ただし、思いついただけでは行動に移せません。

前置きが長くなりましたが、この後は静岡県県水産資源課とのメールによる質疑応答の長い記録です。

読むのが面倒な人のために、先に結論を書きます。ただし、以下は私個人の感想的判断ですから、責任は一切負いません。

「静岡県漁業調整規則43条の漁具漁法制限では、無許可のわな漁は違法です。が、その規則が適用されるのは海(面)なので、陸上でのトラップ(箱わな)による雑カニ捕獲は原則として自由、と考えられます。ただし、捜査機関の知ることとなれば、何らかのトラブルにならないとも限らないようです。」

以下は、上の結論に至る根拠となったメールのやり取りですが、□□は私で、■■は県の担当者です。時系列で上が古く、下が新しいものです。

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ご担当者 様 

静岡県漁業調整規則43条の解釈についてお尋ねします。

 第43条
 何人も、海面において次に掲げる漁具又は漁法以外の漁具又は漁法により水産動植物を採捕してはならない。

 この文言にある「海面」の定義を、以下の1.2.に則してご教示ください。

 1. 43条の規制が及ぶ水域と規制外の陸域の境界はどこと定めるものか。
 2. 水面の下、即ち海中のみを指すのか、水面上の空中(護岸壁面接続空域等)をも包含するのか。

 以上、お尋ねします。ご多用中恐縮ですが、メールにより回答くださるようお願いいたします。

 〇〇市 □□□□

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 □□ 様

 照会いただいた件について回答します。

 今回の質問文に空中をも包含するのかという文言があることから、漁具を使う具体的な(直接的な)範囲としての「採捕を禁止されている海面とはどこを指すのか」といった意味の御質問かと存じます。
 このため、先に採捕の概念から回答します。

 こちらの回答と□□様の意図が異なる等ございましたら再度御連絡いただきますようお願いいたします。
 なお、メールのみのやりとりは文章の意図が伝わりにくく、回答準備に時間を要する割にお互い伝わらない場合がありますので、メール送付の後などにお電話で御連絡いただけますと大変有り難いです。

 静岡県漁業調整規則の制定根拠となる漁業法において、「水産動植物」とは、水中に産出する動物及び植物一切を指します。そして「採捕」とは、自然状態下にある水産動植物を、人の所持その他事実上の支配下に移す行為をいいます。

 43条に記載している「採捕してはならない」の禁止が発生する時点とは、水産動植物を採った後(採ったその瞬間及び採って所持した後)からを禁止しているだけでなく、採ろうとする行為(準備行為)も含まれています。

 すなわち、水産動植物を決められた道具・方法以外で採捕してはならないという43条が適用される空間は、採捕するための漁具が水に浸かる、浸からないを問わず、水産動植物を採ろうとしたところからが対象です。

 1 43条の規制が及ぶ水域と規制外の陸域の境界(水平面としての回答)
   規制が及ぶ水域は海面を指します。海面は内水面とつながっておりますので、その境界につきましては、水産資源課HPで御確認ください。
(URL:https://www.pref.shizuoka.jp/sangyoshigoto/suisan/suisanshigen/1047554/1028124.html)
 □□様がお知りになりたい水面の境界が掲載されていない場合は再度お問合せください。

 2 海中のみを指すのか、水面上の空中空間をも包含するのか(空間としての回答)
  「採捕してはならない」の対象は、採ろうとする行為(準備行為)も含まれていることから、海中だけでなく水面上の空中(護岸壁面接続空域等)をも包含することになります。

 静岡県水産資源課:■■

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 ■■ 様

 ご回答ありがとうございました。

 はじめに、電話の利用については、録取の際の祖語の懸念があるので、控えさせていただきます。

 ここで再質問する以外のことについては、全て理解したものとご承知ください。

 再質問

 1. 規則43条の規制が及ぶ水域と規制外の陸域の境界はどこと定めるものか。

 前回のこの質問は、ご回答いただいた「内水面」との境界を問うものではなく、規則における<海と<陸の境界を問うものです。

 具体的事例としては、海と陸に跨って棲息する海産動物(漁業の対象とならない雑小カニ)を陸域で罠様の捕獲器具で採捕することを想定します。陸域での採捕にも規則43条は適用されるものですか?。

 2. 前文の陸域における採捕ついて、静岡県漁業調整規則の対象外の場合には、他の法令制限が適用される可能性があるなら、お分かりになる範囲で、関係法令、機関等をご教示ください。

 フィールドワークをする者は、法令を遵守することが必須と心得ています。たびたびお手数をおかけして恐縮ですが、ご回答をお待ちします。

 〇〇市 □□□□

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 □□様

 以下、回答します。

 1. 規則43条の規制が及ぶ水域と規制外の陸域の境界はどこと定めるものか。

 【回答】

 以下、(1)と(2)が□□様の照会に対する直接の回答ですが、規則第43条の規制は(1)から(4)までを踏まえた上で、違反か違反でないかの判断になります。

 (1)水平面については前回、回答したとおりです。

 (2)垂直面については法的に明確な定義はありませんが、(1)で海面とされた水域のうち、公共の用に供する水面となります。 潮の満ち引きの範囲内だと受け止めてください(最大高潮時海岸線(春分、秋分の日の最高潮位)が参考となります)。

 (3)規則43条に記載している水産動植物の定義は以下のとおりです。漁業の対象か否かは問いません。 「魚類、貝類、藻類、鯨その他の海獣類、いか類、かに類、えび類等水中に産出する動物及び植物一切をいう。 水産動植物は水中にのみ生息するものに限らず蛙のような両生類も含み、さんご、海綿のような漁業の対象たる水産動植物の遺骸も含む。(略)」

 (4)「採捕してはならない」の禁止が発生する時点は、前回回答したとおりです。

 2 水産動植物以外の採捕については管轄外となります。申し訳ありませんが回答はいたしかねます。
 以上、よろしくお願いします。

 ※回答に使用した参考図書は逐条解説漁業法(大成出版社)です。

 静岡県水産資源課:■■

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 ■■ 様

 ご回答ありがとうございました。

 (1)から(4)について概ね理解できたつもりですが、前回の具体的想定(陸域で罠様の捕獲器具で採捕する)に基づき確認させていただきます。

 規則第43条は、海面における漁具漁法の制限をするものであり、私の想定する採捕場所である「内水面でもない純粋の陸域」には適用されないという理解でよろしいですか。

 具体的な想定を提示してお尋ねしていますので、端的にご回答くださるようお願いします。

 ご多用中恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。

 〇〇市 □□□□

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 □□様

 今回御質問のあった、□□様の想定される採捕方法について、それが合法か否かは最終的に司法の判断となります。
 以下に、水産庁が示した漁業制度の通知等に関する解説書の写しを添付しますので参考にしていただければと存じます。
 

なお、この中にあります漁業法の条項については、令和2年12月の法改正前のものとなっておりますので御了解ください。

 以上、よろしくお願いします。

 静岡県水産資源課:■■

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■■ 様

ご回答および参考資料の送付ありがとうございました。

お示しいただいた「漁業制度例規集」の内容は、私の想定する事例とは、採取場所と対象物の2点で異なりますので、そのまま「~同規則を適用する余地がある。」という解釈を援用するのは無理があると考えます。

文書(15)では、漁業調整規則の適用場所は「海面」であることが黄色マーカー部分の前3行で「~言うをまたない。」と明確に示されています。

ただ、黄色マーカー部分では「再び前記海面に戻り得る一時的な状態であるならば、立法趣旨からみて、同規則を適用する余地がある」としています。

~戻り得る状態~について
この「戻りうる」状態とは、詳細に述べられていませんが、そもそもアワビが自発的な運動により陸上に移動したものでないことにかんがみれば、自然の外力による特殊な移動状態を指すものであって、自発的に陸上に移動するカニのような海産動物全般を想定した普遍的なものでない、と受け取るのが相当ではないですか。

~立法趣旨~について
同規則第一条の「目的」にある、「静岡県における水産資源の保護培養及び漁業調整を図り、もって漁業生産力を発展させることを目的とする。 」を趣旨と考えます。

本来、一般人が採取することを想定されていないアワビは、元の位置への移動により再び採捕禁止になり得るのだから、採取を容易に認めることはできない。アワビに関しては、そのような理解ができます。

ひるがえって、採取対象物を雑カニとするならば、たしかに広義には規則の「目的」に合致します。生態系は連続していますから。しかしながら、狭義には合致するとは言い難いです。

生態系全体の保全は環境省の所管事務であり、農水省所管の産業としての漁業関係法規の例外的拡大解釈を元に、徒に制限を拡大しようとするがごとき回答(解釈)には、疑問を禁じ得ません。

本来、陸上(海面以外)には漁業調整規則が適用されず、採取対象が採取禁止種でないのであれば、私の想定する行為がなぜ規則の規制を受ける余地があるのか、理解ができません。

司法が最終判断するのは、法廷で争うことになった場合であり、事前に法的な適否を尋ねることはできません。よって、規則を制定した行政庁たる静岡県から、解釈をお示しいただきたいと思います。仮に、農水省に照会する必要があるのであれば、待つことはやぶさかではありません。

ご回答のほど、よろしくお願い申し上げます。

〇〇市 □□□□

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□□様

メール過誤削除につき主旨を復元 「対象物、場所、採取方法等を具体的に明示されないと回答できません」

 静岡県水産資源課:■■

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 ■■ 様

 ご回答ありがとうございました。

 私が行おうとする行為は、過去にお伝えした以上に具体的な想定はしていません。実行を計画するために、法的な適否を事前に検討、確認している段階です。

 問いが具体的でなければ、回答が概念的にならざるを得ないのは承知の上です。したがいまして例外的な事例でない、原則的な一般論で回答いただければ結構です。

 質疑が長くなりましたので、過去のメール文を振り返り、要約して確認させていただきます。

 1. 漁業調整規則第43条は、海面における水産動植物の採捕の制限を規定しているので、海面でないところには適用されない。(2023.03.30回答より)

 2. 1.で言う海面は、最大高潮時海岸線より海側の公共の用に供する海面である。(2023.03.06回答より)

 以上の2点のみ、ご確認願います。

 〇〇市 □□□□

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 □□様

 回答が遅くなり申し訳ありません。
 確認事項に回答します。

 1. 静岡県漁業調整規則第43条は、海面でないところには適用されません。

 2.静岡県漁業調整規則第43条が適用される範囲は、最大高潮時海岸線より海側の公共の用に供する海面となります。

 以上、よろしくお願いします。

 静岡県水産資源:■■

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■■ 様

ご確認ありがとうございました。
本件につきましては、これにて了とさせていただきます。

お手数をおかけしました。

〇〇市 □□□□

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以上、一部欠落がありますが、2023年春に行われたやり取りです。これをもって適法捕獲の根拠とします。

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