アオリイカ用ヤエンは自作しよう
掛け針を掛けてアオリイカを獲るのは、魚の口に掛けて釣る他の釣りより高度な技術が必要です。実釣の経験値を高めるのはもちろんのこと、その釣りの仕組みを理解するには、ヤエンを自作することが役立ちます。
特に考えることなく、買ったアジを泳がせて、買ったヤエンを使って掛けて獲れることもあります。でも、釣り上げた数/アジを抱いた数 はどうでしょう。釣果が少なくても皆無でも、納得できれば、遊漁の場合には結果オーライですが、なかなか満足はできないでしょう。
私はヤエンの製作を思い立ち、調べ始め、設計して、作ってみて知ったことが沢山ありました。というより、なんとなく市販品を使っていた段階では、ほとんど何も知らずにやっていたと言う方が当たっているのかもしれません。
何しろ過去二つ購入した既製品のヤエンには、ヤエンの基本(理論)の説明が無かったのですから。恥ずかしいことに、錘の位置調整の意味すら知らずに使っていました。商品にロクな説明が無いのですから、、。今考えれば、それでも低確率(約1/3)ながら 釣れていた のが不思議なくらいです。
自作の難しさについては、ハマると奥が深いので、高度な理論や製作については他に譲るとして、ここでは基本のキを記します。製作技術は針金を曲げて半田付けするだけなので、DIYの難易度的には簡単な部類です。
ヤエン釣り理論
アオリイカを狙うヤエン釣りは、時期、対象、状況(海況、餌魚)等々によって釣法(対処の仕方)にバリエーションがあります。アタリを得た釣り人が、何を考えてどうしようとしているのか、頭の中の戦略は傍目には分からないことも多いです。
そうは言うものの大まかな流れはあるので、まずは話を進めるための入口として標準的なヤエン釣りの釣法を記します。
< 参考 > ヤエン釣りの標準的釣法
1. 餌魚に尾針を打って投入する。着水手前でラインを張り、頭から着水させる。
2. 糸ふけを取り、少し張って頭を沖に向かせ、沖に向って泳がせる。
3. 時々ラインを張って(聞いて)、障害物に絡んでいたら、投入し直す。
4. 竿先の変化やラインの出入でアタリ(居食いを含む)を感知したら1~5分程度待ち、餌魚を食わせる。
5. 寄せはじめたら、なるべくラインは出させずに竿で溜めていなし、ポンピングで寄せる。
6. 障害物を抜けられない時には、あえて強く引いて離させ、抜けた後に、数分間追い食いを待ち、再度抱いたら続行する。
7. ライン角度30度以上が確保でき、かつイカ迄の間に障害物が無いことを確認出来たら、ヤエンを投入する。
8. 張った状態で降下させて、ヤエン第1支柱がストッパーを超える位置まで送り込む。
9. 竿のテンションをわずかに緩めた時に竿先が曲がらなければ、ヤエンの重みをイカが負担するとともに、ヤエンの先は上がっているはずで、針掛かりできる状態(タテ抱きなら)になっている。
10. 張る・緩めるの動作により、ヤエン掛針の針先で下からアオリイカの腹側をノックして刺激する。
11. 違和感を感じて(危険を察知して)イカが強く後進(ジェット噴射)した時には、2つの事態(針掛かりの有・無)を想定しつつ対処する。
① ヤエン掛針が掛かって逃げている場合は、テンションを抜かず、身切れしないように慎重に寄せる。
② ヤエン掛針が未だ掛からずに餌魚を抱いて尾針を引いている場合には(墨を吐いていない)、テンションをかけ続けて寄せながら針掛かりを待ち、掛かったら①に移行する。
12. ランディングして完了。タモ入れ前後に針掛かり位置を確認する。
上の釣法の過程にはロッド、リール、ライン等のタックルも大いに関係しますが、ここではヤエンに絞って考えます。どうすれば針掛かりの率を上げてアオリイカを手中に収められるのか。
ヤエンを投入しても、ラインの降下角度が足りない(30度以下)ことや、間に障害物があること等により、アオリイカまで届いていない状況もありますが、ここでは届いた後のお話です。
ヤエン釣りの基本は、活き餌魚を抱いているアオリイカの下にヤエンを潜航させた後に、針先を上げて触れさせ、掛けて獲るものです。ヤエンを操作して針先を上下に動かして針をイカに触れさせるのは釣り人の操作ですが、針が刺さるのは主としてイカの後進の動きにもよるものです。
このことは、イカと掛け針のタテ・ヨコの位置関係が重要であることを示します。針先をアオリイカの腹側(裏面)の体(胴、頭、腕)に触れさせることが、この釣りの最重要事項です。
なお、餌魚を縦に抱いている時と横に抱いている時では、餌魚に掛けてある餌針の位置も違うので、投入したヤエンとアオリイカの位置関係が変わります。それが、見えない海中で起きるのですから難しく、空振りや浅い掛かりによるバレも多発して捕獲率が下がります。
加えて言うなら、ヤエン投入タイミング次第では障害物に絡むことも頻発するので、これとの兼ね合いも考えねばなりませんが、まずは針掛かり率を上げることを優先して、そこを深めます。
アオリイカとヤエンのタテ位置関係
ヤエン投入後の降下時の姿勢は、ラインに対して針先が下がり過ぎると、はねあげ時のブレが大きくなって空振りの原因となりかねません。反対にラインの上に針先が出ると、ライントラブルを起こしたり、イカへの到達時に針先がイカに衝突して即逃げの原因となり得ます。
タテの要素については、機械的ハネアゲ式のヤエンもありますが、機構がいささか複雑(で高価)な割に評価(実績)がさほどではないようです。"釣りの仕掛けはシンプルに"という原則に従い、凝ったハードに頼る前に、従来の基本形の針先上下位置を意識することが大事だと思います。
基本形のヤエンで必要となるヤエンとイカのタテ(上下関係)の空振り回避策ですが、これは針先をアオリイカに触れさせ易くするためのフックポイントのメンテナンス(研磨)を前提に、以下が必要事項と言えます。
② ヤエンの錘重量と位置調整・・錘の位置は後になるほど、跳ね上がりの角度とイカに当たる力が強くなります。
③ ラインを張る・緩めるの操作・・掛け針を烏賊に食い込ませる力はイカの後退動作(ジェット噴射)ですが、それを誘発する操作(ヤエンがイカに届いた後、ラインを緩めることで前部第一支点を支点として、後部オモリが下がる反作用で針先が上に上がってイカに触れること)が必須です。
アオリイカとヤエンのヨコ位置関係
ヤエン針とアオリイカの位置関係は時々刻々変化し、針とイカの接触の可能性には、自ずと限界があります。以下の4つの要素の組み合わせで位置関係を見ると、針掛かりし易さの傾向が見えてきます。4要素の組み合わせ16点の画像を示すので、ヨコの位置関係を見て、ヤエンのより良い形状を考えてみます。なお、画像は海中で下から上を見上げる位置関係になります。
対象が 親イカ(胴長30cm) or 子イカ(胴長20cm)
餌魚が 大アジ(全長20cm) or 中アジ(全長15cm)
姿勢が タテ抱き or ヨコ抱き
ヤエン 直線3点針 or 三角3点針
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親イカ 中アジ タテ抱き 直線3点針 |
画像中の直線3点針ヤエンは アオリヤエンM/ヤマシタ で、三角3点針は今回の自作品です。
ヤエンの投入タイミング次第で、餌をどこまで喰っているかが違いますが、それも含めて想像して見てください。
直線3点針ヤエン(ヤマシタ) で気付くことは、ヨコ抱きでは、掛かってもエンペラで、取り込むまでの間に身切れになる危険が高いように見えます。巷で言われる、「タテ抱きまで待つ」意味がよく分かります。
タテ抱き(※文末)の場合には、ラインの先に真直ぐに進んだヤエンが、正対したアオリイカの下に入るので、横方向のハズレが起こりにくい、と読み取れます。
三角3点針ヤエン(自作品) で気付くことは、タテ抱き・ヨコ抱きいずれの場合にも針がイカに触れる機会があるように見えます。ダブルタイプの 市販品 よりコンパクトな設計ですが、比較結果を知りたいものです。
ヤエン2種いずれの場合にも、餌魚全長が20㎝もあると実釣では、泳力が強過ぎてラインが出て扱いにくいこともありますが、ヤエンが掛かりにくくなるように見えます。
ヤエンに関するタテ・ヨコ以外の要素として、ヤエンが針掛かりする前にアオリイカが餌魚を離すことへの考察ですが、これは"衝突ショック軽減"や"ステルス性向上"等が考えられます。その対策は、ヤエンの小型軽量化と塗装による目立ちにくさに配慮すること以上には難しそうです。
自作ヤエンの設計
上の理論の裏付けに則りますが、最速での進歩は、真似+工夫(改良)で実現します。
ヤエンの形とサイズ
市販品にはいろいろな形、大きさの物があります。大きさに関しては、対象のアオリイカと餌魚のサイズで決めるべきものですが、基本は15㎝程度の餌魚にヤエンは市販品のMサイズと考えれば、大外れは無いはずです。
春の親イカと秋の子イカの体長差は意識するものの、主には餌魚のサイズを考慮すれば良いでしょう。
そもそも餌魚を抱いたアオリのサイズが揚がる前には見えないのですから、ヤエンのベストサイズを選ぶのは事実上不可能だと思います。
ここでは実績に裏付けられて生き残った標準形(アオリヤエンM/ヤマシタ・掛獲ヤエンM/オーナー)を参考にしますが、この2つの市販品には、2点針か3点針かという違い以外には、微妙なサイズの違いしかありません。
錘はどちらも2号で、標準的な30度程度の降下角度での降下時のヤエン先端とラインとの開きは1~2㎝です。
今回は、この直線状2点針or3点針のヨコ方向の空振りを回避することを企図して、3角3点針の物を自作します。
自作に使う掛け針は、ヤエン釣りが掛けて獲る釣りである以上、何よりも大事です。実際に掛かる針は1本で良いと考えますが、しっかり深く刺さるように物を選び、フックポイントは干渉し合わないような配置で、必要最小限にします。
その針がアオリイカのどこに掛かるのが良いのか、も重要です。体のどこに掛かっても獲れる可能性はありますが、針の掛かり易さでいうと胴よりも頭部~腰(大腿部)がしっかり掛かりやすいです。エンペラは破れやすく、胴は硬くて弾くのかもしれません。
ヤエンが届く前にアオリイカが餌魚を離すことへの対策ですが、これは"衝突ショック軽減"と"ステルス性向上"等が考えられますが、軽量化と目立ちにくさに配慮します。
ヤエンの変形については、第一支点リングに掛かった餌針と先端の掛け針が強く引き合うと、第一支点基部に強い力が掛かって変形します。これを防ぐために、今回の自作では、この支点基部にコイルバネ(二重)を入れて接続し、引き合う力の一部を吸収することにします。この弾力がスレ針の抜け防止にも寄与するでしょう。私はメインラインにPEを使うので伸びが少ないために、ショック吸収への気遣いでもあります。
ヤエン自作の素材と調達
針や軸の耐久性(強度や錆びにくさ等)を考えれば、素材はステンレスに行きつきます。このステンレスにも種類があるのはご存じのとおりです。
軸はごく普通のSUS304でかまわないのですが、針は鋭さがすぐに失われては困るので、SUS420が適するようです。
軸(構造)の太さは、1.0mm径の物 が市販品で多用されているように、これが基本になります。ただし 0.8mm径 でも形状に配慮し、不正常な外力を加えなければ、通常使用で壊れることはありません。(NY3号ラインでもやり取りできる程度の力しか掛からないのですから)
バネ線の1.0mm径と0.8mm径では、加工のし易さにかなりの違いがあるので、初めて作る際には0.8mm径を使うのが妥当でしょう。
ステンレス線は直線の物(約140円/m) を使う方が無難ですが、巻き線 (約100円/m) の方が単価が安いのと無駄が出ないので、初めは直線材を使って、慣れたら巻き線を展ばして使うとコストダウンに効果があります。
針も自作は可能で、自作なら大いにコストを下げられますが、針先の精密加工の難易度が高いことと、SUS420素材のバネ線が見つからないので、掛け針はバラ針を購入するのが妥当のようです。
コーティングor塗装済の針も市販されていますが、半田付けに不安があるので、私は素材のままの物を使用します。
今回の製作にあたっても利用した マルトフックの通販 は土曜の夕方発注して、翌日曜日には届くという驚きの速さ(偶然?)で、しかも送料はネコポス利用の330円でした。
針の検品も無用なほど高品質で、この針で掛からなければ、釣れない原因は他にあると断言できるレベルです。(ただし、<小>の線径が細めなので、ぶら下げ荷重2kgには耐えましたが、4kgでは曲がりました。)
ヤエンDIY製作
ここでは基本(直線上の針配列)を外れて、W(二股)タイプの物を作ります。なぜなら、一般的なシングルタイプの市販品を超えるための自作なのですから。構造の基本や製作作業の技術には変わりがありません。
< 材 料 >
掛け針(バラ) マルト鮎狐型イカ針バーブ付(線径=0.67mm) or ヤエンフック(線径=0.90mm)
銅線 0.19mm径 直付けに不安がある場合にはコレで巻いてから半田付けする
おもり 中通し 1.5 or 2.0号
浮き止めゴム L
半田付けのポイント
ステンレスバネ線とステンレス針で作るヤエンですから、ステンレスの半田付け作業が必須になります。慣れと同時に工夫がものを言います。
1工程でしっかり付ける半田付けのキモは仮止め方法です。L=3mmほどに切ったシリコンチューブで束ねて仮止め。これで、銅線巻や整形のための前工程などは全て不要になります。
ここで使うシリコンチューブは、使用中は弾力で押さえられ、かつ半田付けの温度では溶融しないので、冷めれば外せます。しかもたばねた線材の隙間には、溶けた半田がしっかり流入します。
< 作り方 >
2. 半田付けに隠れる部分を除き、線材の末端をヤスリ(サンドペーパー)で丸めておきます。ラインを傷つけないためです。
4. Aに中通し錘を浮きゴムで挟んで挿入します。
6. AにBとC(+針3本)を半田付けします。
< 工具等 >
ステンレスパイプ 内径1.5mm 針の曲がり修正用
シリコンチューブ 内径1.5 & 2.0mm
ヤエンの使用
・ここで紹介したオリジナル品の三角3点針ヤエンは、市販の1本軸直線形状の物と同様に使えます。
・主軸径0.8mmで製作した物は、アオリイカとの引き合いには耐えられますが、不用意な力を掛けると塑性変形しやすいので、取り扱いには注意が必要です。
・針先が命なので、必要に応じて、良質の 釣針専用ヤスリ で研ぎます。この商品は(針先の曲がり修復に便利なステンレスパイプ付き)なのでオススメです。
ヤエン自作のコスト
材料費だけを積算すると、自作ヤエン新規1個あたりは約250円です。自作物は修理や部品取りもできるので、再生も考えれば実際のコストはもう少し下がるでしょう。それだけでなく、学びの機会と製作の自由度を得ることに、大いに価値ありと思うのは私だけではないと思います。
※タテ抱きとヨコ抱き
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釣り上げられても餌魚のアイゴを離さないアオリイカ |
= 活餌魚のサイズ考 =
活き餌に多用されるアジのサイズには釣り人各人の好みが出ます。大きいほど良い、という人も居ます。確かにかなり大きくても、アオリイカはアタックしてきますし、餌魚は動きが不自由なので難なく抱かれますから、餌として好まれるはずです。釣法によってヤエンを入れるタイミングもそれぞれなので、、なんとも言えませんが、立派で旨そうなアジを活き餌に使うのを見ると、「もったいない」と思ってしまいます。釣りのプロセスで、時間が稼げない小型魚の方が難しいのも事実なんですが。
自作ヤエン記事のまとめ
私がヤエン釣りをする福井県越前地方は藻が多くて、これへの対策なしでは捕獲率が低いです。なので、あまり走らせずに早期に掛けに行くスタイルが向きます。それとともに、現地でアジが釣れない時にもアオリイカは居ますから、現地調達 の雑魚(アイゴ、木っ端グレ等)を活き餌とする必要があります。それに向く小型軽量で針掛けし易いヤエンが欲しくて自作を始めました。今後も改良が続くでしょうが、適時に公開していきます。
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